2017/1/18
カーネーション『Multimodal Sentiment』
2016年7月13日発売カーネーション4年ぶり通算16枚目のオリジナルアルバム『Multimodal Sentiment』のレビューを今更ながらお届けしたいと思います。
データ
リリース | 2016年 |
---|---|
レーベル | P-VINE |
トラックリスト |
|
4年ぶりのフルアルバム
前作『SWEET ROMANCE』から4年も空いちゃったんですね。とは言え、その間にトリビュートアルバム『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』が出たり『a Beautiful Day』20周年ライブ盤が出たりと精力的な活動は相変わらず。そんなカーネーションの新譜は久しぶりの夏リリース。コロムビア時代の『EDO RIVER』、『a Beautiful Day』、『GIRL FRIEND ARMY』がいずれも8月リリースだったこともあり個人的にカーネーション夏の3部作と呼んでいます。それくらい一時期カーネーションと言えば“夏”なイメージがありました。
夏の3部作から20年が経過した今作『Multimodal Sentiment』は夏のカラッとしたイメージとは違い、タイトルが示す通り様々な季節、様々なシチュエーション、様々な感情、その時々の一瞬を切り取ったかのようなバラエティに富んだアルバムになりました。
まずはリードトラック「いつかここで会いましょう」を。
EDO RIVERから20年
「いつかここで会いましょう」は94年リリース『EDO RIVER』の表題曲「EDO RIVER」の続編であると直枝氏自ら語っています。「EDO RIVER」ではどことなく投げやりでフーテンな風情が漂っているんですけど、それから20年を経た“ぼく”の詩情はともすると諦観と取られてしまうくらい人生の哀歓は起伏がなだらかになった印象を受けます。“いつからかぼくらはあきらめることを知った”という歌詞にもそんな一端が現れているかもしれないですね。それでも暗さより清々しさを感じてしまうのは、雲と風を感じる土手からの景色がどんどんと視界を広げていくイメージに繫がるからでしょうか。聴き終えた後のこの複雑な感情はまさしく“Multimodal Sentiment”と呼ぶべきもので、「さすがカーネーション・・・!」と1人唸ってしまったわけです。
ワウなギターが「EDO RIVER」、「いつかここで会いましょう」両曲に共通していて、サウンド面でも続編感を感じさせてくれます。「いつかここで会いましょう」ではギターで松江潤が参加しています。松江潤といえばスプージーズなイメージですけど、直枝さんがプロデュースしたソロ作は所謂渋谷系なサウンドだったと記憶しています。家のどこかにCDがあったはず・・・。
ここで1曲「EDO RIVER」。みんな若い!
年齢を感じさせない振れ幅
ファンクネスな「2. WARUGI」、土臭く男臭い「9. E.B.I.」、現代版「神田川」かのような恋愛を大森靖子とデュエットした「10. 続・無修正ロマンティック 〜泥仕合〜」、折り重なるノイジーなギターにピコピコとした鍵盤がメランコリックな「11. Blank and Margin」などなど聴きどころが多い今作ですけど、その中でも特にお気に入りなのは「1. まともになりたい」です。
ヌケの良いギターリフから始まるこの曲は、Sebadoh (セバドー)のようなロウファイなグランジ感があるように思うんですけど、この感じ今までのカーネーションにはありそうで無かったんですよね。1曲目から良い意味で裏切ってくれます。
それにしても今作で見せた1曲ごとの作風の振れ幅は60代を目前にしているバンドとは思えません。ミュージシャンに対して年齢の話をするのは失礼だとは思いつつ、バンドを20年以上追っかけ続けてきたファンとしては感動すらしてしまうのですよ。まだまだこのバンドは現役だと。
コロムビア時代の作品も今作もApple Musicで聴けますので未聴の方は是非!!
作業メモまとめ
人の褌で相撲を取るキュレーションメディアみたいで申し訳ないんですけど、自分のためのメモとして直枝さんがTwitterで投稿していた今作の作業メモをまとめておきます。
こういうアルバム制作の舞台裏って面白いですよね。「大田くんは「じゃがたら」だと喜んだ。」この1文ほんと好き。
作業メモ#1.どんなアルバムになるかは最後までわからない。共同作業なので必ずハチャメチャな状況になるし、全員が疲れ果てた頃にようやく作業が終わる。楽勝なんてない。現場のノリが物を作るというか、特にエンジニアの影響力は大きい。直枝
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
作業メモ#2.まずはアナログのリールにHome Demoのデータ(シンセや仮歌等)を流し込んでリズム録音。そこにドラムス、ベース、ギター、ピアノで「せーの!」一発。想像力をフルにやるだけ。録音はいたってシンプルだ。音決めはGOK近藤さんがあっという間に。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
作業メモ#4.「ドラムス全体のチューニングを緩めてXTCみたいにだぶだぶにしたい」と近藤氏に伝えると「わかった!サバスだね!」という謎の言葉を残し、いそいそとブースへ。変わった人だ。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
制作メモ#6.ギター、ウーリッツァーやローズ、ハモンド、ピアノ、弦四などリアルな楽器やある程度の歌はGOKスタジオで終わらせ。それらをデジタルに移行、細かいダビングと修正へ。「メテオ定食」はGOKで録音した仮歌のままだったりする。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
制作メモ#7.スカートの新作で素晴らしい弦アレンジをしていた佐藤優介くんにお願いして「続・無修正ロマンティック〜泥仕合〜」にスコアを書いてもらった。完璧。ディレクションも見事。演奏はソギーでもおなじみ青弦くんのグループ。ナイスな仕上がり。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
制作メモ8.「いつかここで会いましょう」は「Edo River」の続編と言えるもの。サウンドはもちろんだが、歌詞、風景的にはあの「矢切の渡し」周辺(千葉側)の空気が重要な鍵になる。エドのPVロケは流山橋(千葉側)だったが。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
制作メモ#9.「E.B.I.」はニール・ヤング調だが、ティーンエイジ・ファンクラブ「Gene Clark」経由のニール・ヤング風味とでもいうか。歌詞にはドノヴァンやロッドの曲名も登場する。音楽って色々とめんどくさい直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
作業メモ#10.「いつかここで会いましょう」を作る少し前に映画「花とアリス殺人事件」を観た。あの殺風景な郊外へのこだわりに大きな共感を覚えた。わたしが書きたいものは、あの一見何もないと思わせる偉大なる日常なのだ。高圧鉄塔の向こうの。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月13日
作業メモ#12.「WARUGI」はアフロ・ファンク。ベーシックを聴きながら大谷能生くんが何気に吹いた1フレーズにピンときた。「それユニゾンにするとフェラ・クティっぽくなるかも」。大田くんは「じゃがたら」だと喜んだ。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月14日
作業メモ#13.「まともになりたい」には"ご先祖"という歌詞が出てくるが、ステージでそこを歌うと必ずおばあちゃんとおじいちゃんが笑いながら出て来る。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月14日
作業メモ#13.大田くんはフェリックス・パハラルディのような甘い美声を持つが、コーラスをやるとカメレオンのようにヴォーカルの声質に似せてくる。その上、今回は「ドカベン香川唱法」を確立。恐るべしだ。直枝 #mms16
— カーネーション CARNATION (@carnation_web) 2016年7月15日