2017/1/30
Soggy Cheerios『EELS & PEANUTS』
2015年度に1年間岡村詩野さんが主宰するOTOTOY音楽ライター講座に通っていました。講座での課題として書いたディスクレビューがいくつかあったのでブログ用に少し手直しをして掲載してみたいと思います!
文体がちょっとカッチリ目なのは、ミュージックマガジン誌にディスクレビューが掲載されるなら、という夢想の元に執筆したからです(笑)
第1弾はカーネーション直枝政広とワールドスタンダード鈴木惣一朗のユニットSoggy Cheeriosの2nd『EELS & PEANUTS』です。素晴らしかった1stに負けず劣らず今回も濃密な時間が流れております。それではどーぞ。
データ
リリース | 2015年 |
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レーベル | P-VINE |
トラックリスト |
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ハッピイエンドからの続編
直枝政広にとっての鈴木慶一、鈴木惣一朗にとっての細野晴臣、二人とって師とも呼べる大先輩をゲストボーカルに招いた「とんかつの唄」をアルバムのラストに収めた1st『1959』をもってSoggy Cheeriosの活動はハッピイエンドを迎えた、と筆者は勝手に解釈していた。しかしその後もコンスタントにライブを行い、新曲を披露していたのだ。充実した活動振りが伝わっていたSoggy Cheeriosから2年ぶりとなる2ndが届いた。 ロックに出会った原体験を語ったかのような「ロックンロールが空から降ってきた日」、ともに1959年生まれイノシシ年の二人による粋な洒落が効いた「19時59分」「ぼくはイノシシ」など1stではお互いのルーツを題材にした、ある種メモリアル的な曲が多かった。一方今作では56歳になった2人の2015年が歌われているかのようだ。
日本語詞の力強さよ
彼らの楽曲は、はっぴいえんど同様に詞先で作られている。その詩は日本語の美しい響きを再認識させるものや、季節や情景を鮮やかに喚起させるものなど、まるで機微に寄り添うようなやさしさがある。「あたらしいともだち」はどの世代が読んでも新鮮な気付きがあるのではないだろうか。「趣味週間」など若い世代にあまり馴染みの無いテーマや、死生観が垣間見えてしまう内容などは還暦手前のバンドらしい。
中2心を忘れない
音楽に対しての博覧強記ぶりがつとに有名な二人から生まれる曲の数々は前作同様ストレートなロックに仕上がっている。直枝がインタビューで語っている。「二人が中学2年生当時、1973年の録音物が最高であり、その当時の感覚だけでいい」と。この発言はもしかしたら懐古的で後ろ向きな発言ととられてしまうかもしれない。しかしその真意は、14歳という最も多感な時期に受けたロックの洗礼を共感できる2人だけにしかできない音楽をやろう、という気概ではないだろうか。ビートルズ解散後のジョン・レノン、ポール・マッカトニー、ザ・バンド、トッド・ラングレン、そしてはっぴいえんどとはちみつぱい。追体験ではなく、原体験で70年代のロックを浴びるように聴いた二人だからこそできる音楽があるはずだと。
あたらしいともだち
多くの参照点を内包しながら良質なロックとして聴かせてくれるSoggy Cheeriosは日本語ロック黎明期を再現しているかのようだ。しかしそこには古臭さなどは無く、むしろ聴く者に新しい発見を与えているのではないだろうか。それを可能にしているのは優れたミュージシャンでありリスナーでもある直枝政広と鈴木惣一朗の長いキャリアであることは間違い無い。はっぴいえんどから始まる日本語ロックの歴史を2015年の現在まで『EELS AND PEANUTS』は一直線に結んでくれるのだ。