2017/1/31
NRQ『was here』
2015年度に1年間岡村詩野さんが主宰するOTOTOY音楽ライター講座に通っていました。講座での課題として書いたディスクレビューがいくつかあったのでブログ用に少し手直しをして掲載してみたいと思います!
文体がちょっとカッチリ目なのは、ミュージックマガジン誌にディスクレビューが掲載されるなら、という夢想の元に執筆したからです(笑)
第2弾はNRQ『was here』。NRBQに空目したことがきっかけでNRQを知ったという人は自分だけではないはず。充実の2ndを経てのこの3rdは傑作なんじゃないかなーと個人的に思っております。それではどーぞ。
データ
リリース | 2015年 |
---|---|
レーベル | P-VINE |
トラックリスト |
|
New Residential Quarters
2015年、東京という街に存在したことを証明するための『was here』が東京のルーツミュージックと呼ばれる日が来たってなんら不思議は無い。理路整然として街の色も歴史も浅い新興住宅地(New Residential Quarters)で奏でられるのは、古今東西のルーツミュージックを下敷きにしたインストゥルメンタルであった。その音楽性は新興住宅地に唐突に存在するファミリーレストランで中華料理を食べながら店内BGMのジャズを聴いているような無国籍感だ。バンドコンセプトが実に秀逸なNRQ通算3枚目のアルバム『was here』は、Town & CountryやTerminal4など室内楽的なアプローチを試みたシカゴ音響派を遠く過去に置き去りにしてしまうほど痛快なアルバムに仕上がった。
より聴き応えのある楽曲群
大きな躍進の要因はバンマス牧野琢磨の作家性が大きく花開いた結果であろう。過去作と比較して1曲1曲のアレンジがより練り上げられ、ギター・二胡・ベース・ドラムにホーンやクラリネットというバンド編成の面白さが前作よりも増している。そして、どの曲もメロディの骨格がより強固になり、ポピュラーミュージックが持つ普遍的な魅力を存分に感じさせてくれる。「東16字星」(サウンドクラウドで視聴可能)は曲中で様々な展開を見せつつも、ケイジャン音楽的な陽気さで疾走する踊れる1曲だ。この曲ではJAGATARAやMUTE BEATなどで活躍し数多のルーツミュージックに明るいエマーソン北村が鍵盤で参加しバンドのグルーブに彩りを与えている。「sui」は最初期の曲とのことで、1st収録「台湾のおじさん」のような大陸的な風情が漂う。VIDEOTAPEMUSICが手がけたMVも制作されている。「街の名」では中盤からのフォーキーなメロディが美しい。アルバムの最後を飾る「日の戯れ」ではスティールパンバンドのような軽快な演奏からゆったりとしたカリプソを経て、終盤で再び盛り上がりを見せる大団円的な展開が楽しい。
二胡の存在感
そしてNRQ結成メンバーである二胡奏者吉田悠樹の存在感の大きさは今作でも変わらない。過去には1st『オールド・ゴースト・タウン』での「ピロシキ」、2nd『のーまんずらんど』での「ボストーク」とロシア民謡を現代のオルタナティブで咀嚼したかのような楽曲を、ロック感あふれる二胡で表現してきた。今作は「slope」、「門番」と曲数こそ少ないものの、アルバムの中で重要な役割を果たしている。牧野琢磨がNRQにアメリカ大陸の大らかさをもたらせているのだとしたら、吉田悠樹の作家性はヨーロッパのストイックさだ。二人の音楽性の違いが作品に奥行きを与えている。
東京のルーツミュージック
あたかもNRQは世界中の音楽を飲み込み消化しているかのようだ。そして舞台は街の色も歴史も浅い新興住宅地。まだまだ飲め込める余地があるに違いない。未だ誰も聴いたことのない東京のルーツミュージックを次回作でも産みだしてくれるはずだ。
NRQ サウンドクラウド
https://soundcloud.com/makinotakuma